人事管理制度と人事考課(査定)

日本企業の人事管理においては、役職と職能資格という2つの指標が用いられることが多い。役職とは、企業組織上の地位を指し、通常は部長、課長、係長、係員などの職位によって示される。職能資格とは、職務遂行能力に基づく格付けを指し、参与、参事、主事、社員(例えば主事3級6号)などと呼称され、これに従って基本給(職能給)が決定される。役職制度と職能資格制度は、制度的には別のものであるが、実際はゆるやかに結びついていることが多い(例えば参事はおおむね課長相当、主事はおおむね係長相当とされる。)。

これらの役職や職能資格上の位置づけは、上司等が従業員を観察して行う人事考課(査定)に基づいて決定される。

人事考課(査定)制度が就業規則等によって制度化され(または黙示の合意の存在によって)労働契約の内容となっている場合、使用者は労働契約上、人事考課権(査定権)をもつことになる。人事考課は使用者の経営判断と結びついており、特に日本では評価項目が広範にわたり抽象的なものも多いため、使用者は人事考課を行うにあたり、原則として広い裁量権をもつと解釈されている。

しかし、人事考課が、①国籍・身上・社会的身分(労基法3条)、組合加入・組合活動(労組法7条)、性別(均等法6条)など法律上禁止された事由を考慮に入れた場合、②目的が不当であったり、評価が著しくバランスを欠くなど裁量権の濫用(民法1条3項、労契法3条5項)にあたると認められる場合、③所定の考課要素以外の要素に基づいて評価をしたり、評価対象期間外の事実を考慮するなど人事考課に関する契約上の定めに反する場合には、人事考課を違法として損害賠償を請求することができる

昇進・昇格

通常、昇進とは役職の上昇を指し、昇格は職能資格の上昇を意味する。この昇進・昇格の判断は、一般に使用者に広い裁量権が認められている場合が多い人事考課に基づいて行われる。また、特に昇進の対象となるポストの数や配置については、使用者の経営判断に基づいて決定されることが多い。したがって、労働者は原則として、使用者の決定がなければ昇進・昇格した地位にあることの確認請求をすることはできないと解釈されている。

しかし、例外として、①就業規則の定めや労使慣行などを通じて昇進・昇格することが契約の内容となっていると認められる場合(例えば勤続10年で原則として係員を係長に昇格させる旨が就業規則に定められている場合)には、昇進・昇格した地位にあることの確認請求が可能である。また、②昇進・昇格の決定の基礎となった人事考課が、法律上禁止された差別(労基法3条、労組法7条、均等法6条・7条など)や権利濫用(民法1条3項、労契法3条5項)などにあたり違法と評価される場合には、損害賠償請求をすることができる

降格

降格とは、役職または職能資格を低下させることをいう。降格には、人事権の行使としてのものと、懲戒処分としてのものがある。

(1) 人事権の行使としての降格

ア 役職を低下させる降格

人事権の行使としての降格のうち、役職を低下させるにすぎないものは、労働者の適正や成績を評価して行われる労働力配置の問題(役職の上昇である「昇進」の裏返しの措置)であるから、使用者は、成績不良や職務適正の欠如など業務上の必要性があり権利濫用にあたらない限り、その裁量によってこれを行うことができると解釈されている。

イ 職能資格を低下させる降格

職能資格を低下させる降格は、基本給の変更をもたらす労働契約上の地位の変更であるから、労働者の同意や就業規則上の合理的規定など契約上の根拠が必要であると解釈されている。契約上の根拠がある場合にも、その契約内容に沿った措置か(例えば降格に値する職務遂行能力の低下があったか)、権利濫用など強行法規違反にあたる事情がないかがさらに検討される。

(2) 懲戒処分としての降格

懲戒処分としての降格(企業秩序違反行為に対する制裁罰としての降格)は、懲戒処分に関する法規制に服することになる。